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Apr 29 2026 ビジネスコラム

逆パワハラが経営者に告げる3つの組織サイン——吹田市47歳職員「減給処分」の本質

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月曜の朝。

部署のフロア。鳴り続ける電話。誰も取らない。空気が重い。理由は、奥の席。中堅職員の机。怒鳴り声が止まらないからです。「なんでこんなことも分からないんですか」と、机を叩く音。声の先には、半年前に異動してきた直属の上司

電話応対が困難になるほどの大声。ため息。誰も止めない。誰も止められない。

これ、思い当たりませんか?

部署内の「触れちゃいけないあの人」。仕事はできる。歴も長い。社内事情にも明るい。だから誰も注意できない。代わりに、異動してきた管理職が静かに削られていく——。

2026年4月、こんな構造がきっかけで実際に懲戒処分になった事案が発生しました。大阪府吹田市の47歳職員(主査級)が、上司への逆パワハラ減給10%・3か月の処分を受けたのです。

これは公務員の話ではありません。あなたの会社の、あの席で、いま起きている話です。経営者・管理職が今すぐ確認すべき3つの組織サインを解説します。

吹田市で何が起きたか——47歳職員の事案

文中概念図①

まず事実を整理します。

発生: 大阪府吹田市・市民部の一般事務職員(47歳・主査級)が、2024年9〜10月、直属の上司(課長代理)に対し、職場内の電話応対が困難になるほどの大声で業務の進め方を詰問。机を叩いて威圧する行為が繰り返された。

処分: 2026年4月20日付で減給10%、3か月間。当時の同室参事ら2人にも監督責任を理由に減給・訓告処分。

認定根拠: 「業務遂行に必要な知識や経験」を部下側がより多く持っていたことを背景に、優越的立場を構成すると認定

注目すべきポイントが3つあります。

第一に、「上司本人からの相談と公益内部通報」が発端だったこと。つまり、現場では誰も気づけなかったわけではない。ただこれまで、動かなかっただけなのです。

第二に、処分を受けた職員は、「ハラスメントの認識がなかった」と聴取に答えています。自覚がない——これが逆パワハラの最大の特徴です。

第三に、監督責任で参事ら2人も処分された。これが重要。逆パワハラを放置した管理職は、共倒れするという強烈なメッセージです。

たとえるなら、消火器の前で煙を見て見ぬふりをした人も、後で焦げる——そんな世界に入ったということです。

なぜ「部下」が「上司」を支配できるのか

ここで多くの経営者が混乱します。

「逆パワハラって、構造的にあり得るの?」

ありえます。しかも増えています

厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査」(令和5年度報告書)でも、ハラスメント行為者の上位は「上司から部下」が多数を占める一方、部下や同僚から、後輩から、という形のハラスメントも一定割合で報告されています。「上司=強者」という単純な構図はもう成り立たないのです。

理由は3つあります。

理由①: 異動・昇格の構造変化
本社からの転入、社外採用の管理職、若手抜擢——「現場経験のない上司」が増えた。一方、現場には10年・20年蓄積した中堅・ベテランがいる。業務知識の格差が生まれます。

理由②: 終身雇用の崩壊と「出世しない選択」
もう昇進したくない」「役職に関心がない」中堅層が増えました。彼らにとって、上司は評価者ではなく、ただの『部署の駒』です。怖くない。失うものがない。

理由③: コンプライアンスの非対称性
上司が部下を叱責→即パワハラ問題。一方、部下が上司を詰める→「指導の必要性」「業務上の指摘」として正当化されやすい。叱る側の方がリスクが高いという非対称が生まれています。

こんな声が聞こえてきそうです。「昔の課長は怖かった。今の課長は、可哀想だ」と。これ、笑えない構造変化です。

経営者が見落とす3つの組織サイン

文中概念図②

ここから本題。逆パワハラを「事故が起きてから」気づく経営者は、もう手遅れです。事前に出ているサインを3つ提示します。

サイン①: 「あの席」をみんなが避ける

部署のレイアウトを思い出してください。

休憩時間に誰もいない席。質問しても返ってこない席。新人配属を全員が断る席。それ、ベテラン社員の「統治区域」になっていませんか?

逆パワハラは、目の前で起きるとは限りません周囲が忖度し、関わらないようにすることで、ベテラン側の支配が静かに完成していきます。

あの人にはあの人のやり方があるから」——これは敬意ではなく、諦めの言葉です。

経営者が見るべきは、「誰が話しかけられていないか」。リーダーの机の周りより、フロアの隅の沈黙にこそ、危険信号があります。

サイン②: 異動してきた上司が「半年で疲弊」している

吹田市の事案で狙われた上司は、異動して間もなかった。これ、偶然ではありません。

中途・他部署から来た管理職は、①現場知識が薄い、②人脈がない、③味方がいない——の三重苦を背負います。赴任6か月以内に何度も体調不良で休む管理職がいたら、部下からの圧力を疑うべきです。

具体的に見るべきは:
会議での発言量が急減していないか
判断を保留する回数が増えていないか
決裁書類が遅れがちになっていないか

これらは、上司側の能力不足ではなく、部下側からの「無言の支配」で生まれていることがあるのです。

サイン③: 「彼/彼女がいないと回らない」と幹部が口にする

最も危険なサイン。

○○さんがいないとうちの部署は回らないからね」——役員が冗談半分でこう言うとき、逆パワハラが既に進行中である可能性が極めて高い。

業務知識の独占=優越的立場の源泉。これは吹田市が処分の根拠にした論理そのものです。「業務遂行に必要な知識や経験を部下側が多く持つ」——これが法的にもハラスメントの優越性を構成すると認定されました。

つまり、「あの人がいないと困る」状態を作っている時点で、組織は既に脆弱です。属人化は、ハラスメントの温床でもあるのです。

では、あなたはどう動くか

サインに気づいたら、今週からの第一歩は3つ。

  1. 業務マニュアル化と権限分散:「あの人にしか分からない」業務を最低2人体制に。情報の非対称を崩すだけで、優越性は弱まります。
  2. 新任管理職への定期1on1: 配属3〜6か月の管理職に、人事部長クラスが直接ヒアリング。本人は弱音を吐けないので、こちらから取りに行く
  3. 匿名通報窓口の運用確認: 「あるけど機能していない」会社は多い。実際に通報があったか、調査されたか、フィードバックされたか——3点をログで確認。

ぶっちゃけ、①の権限分散だけで防げる事案は半分以上です。シンプルですが、効きます。

冷静な注意点

ただし、部下が上司に意見を言うこと=逆パワハラではありません。

健全な議論や指摘は、むしろ強い組織の特徴です。区別すべきは以下です。

健全な指摘 逆パワハラ
業務改善の提案 業務妨害(電話応対不能な大声等)
1対1の対話 公開の場での威圧
事実ベースの指摘 人格否定・繰り返しの詰問
上司の判断尊重 業務命令の無視・無効化

「うるさい部下」を全員ハラスメント認定するのは、もちろん別問題。経営者が見るべきは継続性・公開性・業務影響の3点です。

引用元・参考資料


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YUSUKE HORI

複数社を運営する経営者。上場企業の代表者取締役経験もあり。自らも様々な事業を手掛ける一方で、多数の会社の支援も行う。AIがもたらす経営のインパクトは巨大。だからこそ組織でのAI活用方法を提案したい。

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