月次の経営会議。
人事部長が広げる資料。目に飛び込む赤字。「採用計画、30%ショート」。ため息ひとつ。誰も驚かない。もはや定例の風景。
社長の指先で回るペン。副社長の咳払い。流れる議題。しかし——全員が分かっている。これは、次の議題で片付く種類の問題ではないと。
思い当たりませんか? どこかの会議室で、あなたも見たことのある光景。
業種は違えど、いま全国の経営会議で、同じ空気が繰り返されています。そして多くの経営幹部が、心のどこかでこう呟いているのではないでしょうか。「もう、採用では勝てないのかもしれない」と。
この本音を、テレビの全国放送で公然化してしまった人物がいます。日高屋を運営するハイデイ日高の社長。本稿ではこの事件を起点に、外食に限らずあらゆる業種で使える「人手不足の第三の答え」を、AI活用の5つの具体例からお届けします。
何が起きたのか——日高屋「本音」発言の経緯
2026年4月13日、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト(WBS)」。
ハイデイ日高・青野敬成社長が出演しました。番組のテーマは、外食業界と特定技能外国人労働者の受け入れ停止議論。社長は現場のリアルをこう語ります。
「外国人の特定技能は駄目となりますと、やはり日本人の高校卒業生や大学卒業生、専門卒を中心に取るしかない」
これが切り取られ、SNSで瞬時に拡散。翌々日の4月15日、公式Xで謝罪文が掲載されます。「一部に日本人労働者を軽視しているかのように受け取られかねない表現」があった、との内容。
日高屋を運営するハイデイ日高は約440店舗を展開する、日本を代表する中華チェーン。その新入社員のおよそ3割が特定技能1号の外国人材。しかも、会社の計画では4割まで引き上げる方針だったといいます。つまり、外国人材が経営の生命線。その頼みの綱が、制度議論で揺らいでいる——そんな状況。
あなたの会社の事業計画、特定の外部リソースに依存していませんか? 制度変更ひとつで揺らぐ前提の上に、組織は立っていないでしょうか。この問いは、日高屋だけの話ではないはずです。
背景構造——「外国人ダメなら日本人」の裏にあるもの
なぜ社長は、こんな発言をしてしまったのか。単なる失言で片付けるのは、本質を見誤ります。背景には、日本の労働市場の構造問題が3層に折り重なっているのです。
第1層:人口動態の不可逆変化。生産年齢人口(15〜64歳)は、ピークから既に1,000万人以上減少。2030年にかけて、さらに数百万人の減少が確実視されています。これは「景気」ではなく「人数」の問題。採用予算を増やしても、母集団そのものが消えていく。
第2層:特定技能制度への依存。2019年に創設されたこの制度は、外食・介護・建設・農業など14の特定産業分野で、外国人材の受け入れを拡大してきました。外食業はその最大受益者のひとつ。日高屋だけではありません。すき家、松屋、吉野家。誰もが知る牛丼チェーンもまた、事実上この制度なしでは現場が回らない構造。
第3層:制度運用の揺らぎ。2026年現在、特定技能外国人労働者の一部受け入れ停止議論が政治課題として浮上中。制度の不透明化は、採用計画を立てる経営陣にとって最悪のノイズ。計算できない変数が、生命線の真ん中に居座った状態。
この3層が重なった末に、あの発言。責めるのはたやすい。でも見るべきは、「人を採る」以外の選択肢が、経営者の引き出しから消えていた、という事実。
求められているのは、新しい選択肢。そうは思いませんか?
AIが既に出している「第三の答え」
ここで多くの経営者が見落としている事実を、ひとつ。
AI需要予測の精度は業界トップ水準で95%以上に到達。大手チェーンではAI導入により必要人員を20%削減した事例が既に存在します(MatrixFlow調べ)。
つまり選択肢は二つではなく、三つあるのです。
- A案:人を増やす(採用コスト増、母集団縮小で困難)
- B案:人を維持する(現状の疲弊継続)
- C案:人を減らして回す(AIによる省人化)
以下にご紹介する5つの事例は、いずれも実在する企業の導入済みケース。業種は外食に集中していますが、ロジックは小売・物流・医療・製造・サービス業にそのまま移植可能です。
読みながら、こう自問してみてください。「自社の業務のどこに、この仕組みは当てはめられるか?」
活用術1:スシロー「廃棄率75%削減」の仕組み
回転寿司のスシロー、思い浮かべてみてください。
レーンに乗って流れてくる寿司皿。その一枚一枚に、ICチップが埋め込まれているのをご存知でしょうか。
客が皿を取る。客席から注文端末で追加注文が入る。レーンに新しい皿が乗る。これらの動きすべてが秒単位でデータ化され、クラウドに送られます。AIはこの膨大なログを解析し、「次の30分、どのネタがどれだけ流れるか」を店舗ごとに予測するのです。
導入前の現場を想像してみてください。仕込み量は店長やベテランの経験則で決まる。マグロが余れば廃棄、足りなければ機会損失。これが日常。AIの予測指示に切り替わったあと、廃棄率は75%削減されました。
注目すべきはコスト削減額だけではありません。連動して起きたのが、厨房スタッフの作業工数減。仕込みが最適化されれば、無駄な調理・下ごしらえが消えます。結果、同じ売上を少ない人数で回せる体制に。
つまり「食品ロス」と「人手不足」は、同じ課題の裏表だったわけです。あなたの会社の在庫・生産計画、経験則だけに頼っていませんか?
活用術2:トリドール(丸亀製麺)の「店長を解放する」AI
次は丸亀製麺を展開するトリドールホールディングス。全国約850店舗のうどんチェーンが導入しているのは、発注と人員配置を同時最適化するAIです。
AIに食わせるデータはこう。天候、曜日、時間帯、近隣のイベント情報、過去3年分の客数と売上。雨の日は「だし」の消費が落ちる。運動会シーズンは天ぷらが跳ねる。給料日後は客単価が上がる——これらの傾向を、AIが店舗ごとに学習していきます。
従来、シフト作成は店長の仕事でした。全国850人の店長が、毎週5〜10時間をシフト調整に費やしていた計算。AI導入後、この時間は8〜9割消えたと報じられています。
浮いた時間は何に使われたか? QSC(品質・サービス・清潔さ)向上、新人教育、地域連携の企画作り。本部から見れば、店長という最も重要な経営資源が「事務作業」から「価値創造」に解放された——そう言えるでしょう。
AIで省人化しつつ、人の質を上げる。この二段構えが、今後の経営標準。貴社の管理職の時間、いま何にどれだけ使われているか、数字で把握していますか?
活用術3:協働ロボットが変える「1人オペレーション」
長崎・ハウステンボスのたこ焼き店。
通常、たこ焼き店は2〜3人体制が基本です。焼成担当、返し担当、盛り付け・レジ担当。ここに協働ロボットが入った結果、同じオペレーションが1人で回るようになりました。
ロボットが担うのは、焼成・返し・盛り付けの反復作業。人間は接客と最終品質チェックに集中します。ロボットは24時間疲れず、ムラなく、同じ品質を出し続ける。人間は笑顔で客と話す。役割分担として、むしろ理想的。
「人を置き換えた」のではなく、「人にしかできない仕事に絞った」。これが本質です。
そしてこのモデル、外食以外にも広がりつつあります。物流倉庫の仕分け、病院の配膳、ホテルの清掃補助、工場の検品——「2〜3人が必要だった現場」を1人で回す発想は、あらゆる業種で応用可能。
貴社の現場で、反復作業に人間の時間が奪われている工程、思い当たりませんか?

活用術4:ChatGPT / Copilot によるバックオフィス省人化
ここまでの3つは現場オペレーション。次は管理部門・バックオフィスの話です。
月次の売上報告。部門別KPI集計。取締役会資料。社内通達。採用募集原稿。顧客メール返信。SNS投稿文。これらの作業時間は、ChatGPTやMicrosoft 365 Copilotに置き換えると、概ね3分の1以下に短縮されます。
使い方は難しくありません。売上データのCSVを貼り付け「前月比で異常値を3行でコメントして」と頼むだけ。取締役会資料なら「議論の論点を箇条書きで整理して、スライド構成案を出して」で下書き完成。1分もかからない世界。
想像してみてください。深夜のPC作業が消えた管理部門。定時で帰る経理担当。土日にメールを確認しなくなった営業事務。これは離職率を下げる効果も持ちます。
バックオフィスは、会社の中でも最も疲労と離職が進みやすい領域です。深夜業務が消えれば、採用コストも下がる。間接的な人手不足対策としても機能するわけです。忘れられがちな視点。
あなたの会社の管理部門、先月の残業時間は何時間でしたか?
活用術5:AIチャットボットによる顧客対応自動化
最後は顧客接点の話。
「問い合わせの電話が鳴り止まない」「予約変更の対応で現場が止まる」——これ、B2Cだけの話ではありません。B2Bの営業事務やコールセンターでも、同じ風景は日常的にあるはず。
AIチャットボットとLINE・Webフォーム連携を入れれば、問い合わせの8〜9割が自動対応可能になります。予約受付、変更、キャンセル、よくある質問、資料請求。AIが24時間休まず対応し、本当に人間の判断が必要な2割だけがスタッフに回る設計。
ある中堅サービス業の事例では、電話対応工数が月200時間減少。担当スタッフ2名分の業務時間が丸ごと浮いたといいます。浮いた工数はクレーム対応や新規提案に再配分。顧客満足と売上の両方が上がった、と。
顧客対応こそ、AIで最も費用対効果が高い領域かもしれません。貴社の電話・問い合わせ対応、いま何時間のリソースが奪われていますか?
今すぐやれる「最初の一歩」——業種を問わず
「ウチは大企業じゃないから」と感じた方、ご安心を。最初の一歩は、驚くほど軽い。
Step 1:ChatGPT有料版(月20ドル)を幹部3人に配布する。まずバックオフィス業務だけでいい。経営資料作成、メール対応、データ分析。1ヶ月で、幹部一人あたり週5〜10時間が浮きます。
Step 2:自社の業務データを「貯める」習慣をつける。AI需要予測や業務最適化の前提は、過去データ。POSでも、CRMでも、勤怠でも。毎月CSVで落としておくだけで、半年後には立派なAI学習素材になります。
Step 3:1部署・1店舗だけで、AI導入の「試験区画」を作る。いきなり全社展開は失敗のもと。一箇所だけで3ヶ月試し、効果を数字で測ってから広げる。これが鉄則。
「AI導入=数百万円のシステム」という誤解、今も多くの企業を止めているのではないでしょうか。実際は月数万円から始められる領域が広大。積み重ねで、人件費を月単位で削っていく。これが2026年の現実解。
冷静な注意点——AIは万能ではない
とはいえ、AIを入れれば勝手に効く魔法ではありません。
需要予測は最低3ヶ月分のデータが必要。ロボットは初期投資と保守体制が要ります。ChatGPT活用にも、社内のプロンプト教育・ルール整備は不可欠。
そして最大の落とし穴、「AIを入れたから人を切る」発想。これをやると現場は崩壊します。AIは「減らす」ためではなく、「残った人をもっと輝かせる」ために入れる。この順序を間違えない経営者が、次の10年を制するはず。
結び——「採れない時代」の経営者に問われるもの
日高屋社長の発言は、外食業界の特殊事情ではありません。全業種の経営者が口には出さずとも抱えている本音の、露呈。
採れないのは、もう所与の条件。問い直すべきは、「その業務、そもそも人間がやる必要があるのか?」という一点。
AIが出しているのは、技術の話ではなく、経営の選択肢。人に頼る経営から、仕組みで軽くする経営へ。その切り替えは、来期でも来年でもなく、今日から始められます。
次のシフト表・人員計画を、人で埋めますか? それとも、仕組みで軽くしますか?
その選択が、5年後の貴社の姿を決めるはずです。
複数社を運営する経営者。上場企業の代表者取締役経験もあり。自らも様々な事業を手掛ける一方で、多数の会社の支援も行う。AIがもたらす経営のインパクトは巨大。だからこそ組織でのAI活用方法を提案したい。