Feb 28 2026
トランプ政権がアンソロピックを安保リスク指定、OpenAIは国防総省と合意
📖 この記事で分かること
- アンソロピックが「供給チェーン脅威」に指定された経緯と影響
- 争点となった2つの「レッドライン」とは何か
- OpenAIが同日に国防総省と合意できた理由
- AI企業と政府の関係が今後どう変わるか
💡 知っておきたい用語
- 供給チェーンリスク指定:本来は中国・ロシアなど敵対国の企業に適用される国家安全保障上の制裁措置。指定された企業と取引する軍関係企業はすべてペンタゴンとの取引が禁じられる。
最終更新日: 2026年02月28日
アンソロピック指定の背景と経緯
アンソロピックとペンタゴン(米国防総省)の交渉は、2月24日のピート・ヘグセス国防長官による最後通牒をきっかけに急展開した。争点は明確で、国防総省はAI「Claude」を「あらゆる合法的目的」に無制限で使用できる権限を求めたのに対し、アンソロピックは2点の例外を主張し続けた。
アンソロピックが求めた「レッドライン」は以下の2点だ。
- 米国市民の大規模な国内監視への使用禁止
- 人間の判断なしに攻撃できる完全自律型兵器への使用禁止
アンソロピックのCEOダリオ・アモデイ氏は2月26日(木曜日・米国時間)の声明で「良心に従い、国防総省の要求に応じることはできない」と明言。交渉は不調に終わった。同社は2025年7月に国防総省と上限2億ドルの契約を締結しており(同時期にOpenAI・Google・xAIも同様の契約を取得)、Claudeは軍の機密ネットワーク上で運用されていた唯一の大手商用AIモデルだったとされている。
指定の内容と業界への影響
2月27日午後、トランプ大統領はTruth Socialへの投稿ですべての連邦機関に対してアンソロピックの技術の「即時使用停止」を命じ、6カ月の移行期間を設けた。続いてヘグセス長官がXへの投稿で「国家安全保障の供給チェーンリスク」への指定を正式に宣言した。
この指定が持つ影響は広範だ。通常は中国のファーウェイやロシア系企業に適用される措置であり、軍と取引するすべての業者・パートナーがアンソロピックとの商業活動を一切禁じられる。アンソロピックの企業価値は約3,800億ドルとされており、大企業との契約が事業の柱となっている。しかし、軍との取引があるかもしれない多くの企業顧客がアンソロピックとの取引を打ち切る可能性があるため、業績への影響は2億ドルの契約損失をはるかに上回ると分析されている。
アンソロピックはこの指定に対して「法的に根拠がなく、政府と交渉するあらゆる米国企業に危険な前例を作る」として法廷で争う意向を示している。また、同社がヘグセス長官による軍事請負業者へのアンソロピックとの取引禁止命令には法的権限がないとも主張している。
OpenAIが同日に合意できた理由
トランプ大統領の発表から数時間後、OpenAIのサム・アルトマンCEOは国防総省の機密ネットワークへのAIモデル展開について合意に達したと発表した。注目すべきは、アルトマン氏が合意内容として言及した安全原則が、アンソロピックが求めていた「レッドライン」と事実上同じだったことだ。
- 国内大規模監視への使用禁止
- 自律型兵器システムへの使用における人間の責任の確保
アルトマン氏はX上の投稿で「国防総省はこれらの原則に同意し、法律と政策に反映させ、我々の合意に明記した」と述べた。なぜアンソロピックとは合意できず、OpenAIとは合意できたのかは現時点で明確ではない。一説によると、両社の解釈の違いが影響した可能性がある。アンソロピックはAIが現行法では対応しきれない形で公開データの大規模収集を可能にすることを懸念していた一方、OpenAIの合意は既存の米国法と国防総省の政策の範囲内に収まるものと説明されている。
アルトマン氏はさらに、「この合意と同じ条件をすべてのAI企業に提示するよう国防総省に求める」と述べ、業界全体の枠組み作りへの意欲を示した。
業界全体への波紋と今後の展望
今回の事態はAI産業全体に大きな波紋を広げている。Googleの従業員300人以上とOpenAIの従業員60人以上が同様の制限を求める連名書簡を提出し、Microsoft、Amazonの従業員も声を上げるなど、シリコンバレー内部での反発は広がりを見せている。イーロン・マスク氏のxAIはすでに独自契約として機密ネットワークへのアクセス合意を締結しており、マスク氏自身はX上で「アンソロピックは西洋文明を憎んでいる」と投稿した。
一方、アルトマン氏はかつての競合相手を「彼らが安全を本当に気にかけている会社だと信じている」と擁護するなど、業界内での立場の違いが顕著になった。
今後の焦点は2点だ。第一に、アンソロピックが司法の場でこの指定を覆せるかどうか。第二に、OpenAIの合意が他のAI企業にとっての「標準的な枠組み」となり、AI企業と政府の契約交渉の前例になるかどうかだ。AI技術の軍事利用をめぐる線引きをどこに引くかは、今後もAI企業と政府の間で繰り返される論点になると考えられる。
よくある質問
Q: アンソロピックの「供給チェーンリスク」指定とは、具体的に何が制限されるのですか?
A: 通常は外国の敵対企業に適用される措置で、米軍と取引するすべての請負業者・サプライヤー・パートナーが、アンソロピックとの商業活動を一切行えなくなります。アンソロピック自身への制裁というより、アンソロピックの顧客基盤を根本から断ち切る効果を持ちます。ただし、アンソロピックはヘグセス長官にこの命令を発動する法的権限があるかどうかについても争う方針です。
Q: OpenAIはアンソロピックと同じ条件を求めたのに、なぜ合意できたのですか?
A: 現時点で明確な答えは出ていません。アルトマン氏の合意は「既存の米法律と国防総省の政策を反映した」とされる一方、アンソロピックは現行法がAIによるデータ収集能力に対応できていない点を懸念していたとされています。交渉の実態や妥協点の詳細はまだ開示されていません。
Q: この問題は日本のAI利用にどのような影響をもたらしますか?
A: 直接的な法的影響は現時点では限定的とみられますが、軍事・政府向けAI利用における安全規制の国際的な議論が加速する可能性があります。また、AI企業が自社の利用規約をどこまで政府契約に対して主張できるかという前例が、日本を含む各国での今後の調達・規制議論に影響を与える可能性があります。
まとめ
トランプ政権は2026年2月27日、アンソロピックが自律型兵器と国内監視に関する使用制限を撤廃しなかったことを理由に、同社を連邦政府の調達から排除し「供給チェーンリスク」に指定しました。アンソロピックは法廷闘争を表明し、OpenAIは同日、ほぼ同様の安全原則を明記した形で国防総省と合意。AI企業の倫理的立場と政府の要求の間でどう折り合いをつけるかが、業界全体の課題として浮上しています。
【用語解説】
- アンソロピック: 2021年にOpenAI出身者が設立したAI企業。AI安全性を研究・重視する姿勢で知られ、「Claude」シリーズを開発。直近の企業評価額は約3,800億ドルとされている。
- 防衛生産法: Defense Production Act(DPA)。1950年制定の米国法で、大統領に国家防衛のために国内産業を統制する広範な緊急権限を与える。今回、国防総省はアンソロピックへの適用を示唆した。
- 自律型兵器: 人間の判断を介さずに標的を識別・攻撃できる兵器システム。AIの軍事利用における最大の倫理的論点の一つ。アンソロピック・OpenAIともに、現行AIモデルの信頼性は「完全自律型」での使用には不十分と主張している。
免責事項: 本記事の情報は執筆時点のものです。AI技術は急速に進歩しているため、機能や制限は予告なく変更される場合があります。
引用元:
- [1] CNN Business – https://www.cnn.com/2026/02/27/tech/anthropic-pentagon-deadline
- [2] CNBC – https://www.cnbc.com/2026/02/27/trump-anthropic-ai-pentagon.html
- [3] Axios(供給チェーンリスク指定) – https://www.axios.com/2026/02/27/ai-trump-supply-chain-anthropic-pentagon-blacklist
- [4] Axios(OpenAI合意) – https://www.axios.com/2026/02/27/pentagon-openai-safety-red-lines-anthropic
- [5] PBS News Hour – https://www.pbs.org/newshour/politics/trump-orders-federal-agencies-to-stop-using-anthropic-tech-over-ai-safety-dispute
- [6] Anthropic公式(アモデイ声明 2月26日付) – https://www.anthropic.com/news/statement-department-of-war
- [7] Reuters(法廷闘争の表明) – https://www.reuters.com/world/us/anthropic-says-it-will-challenge-pentagons-supply-chain-risk-designation-court-2026-02-28/
- [8] TechCrunch(従業員署名) – https://techcrunch.com/2026/02/27/employees-at-google-and-openai-support-anthropics-pentagon-stand-in-open-letter/
15年以上の開発経験を持つソフトウェアエンジニア。クラウドやWeb技術に精通し、業務システムからスタートアップ支援まで幅広く手掛ける。近年は、SaaSや業務システム間の統合・連携開発を中心に、企業のDX推進とAI活用を支援。
技術だけでなく、経営者やビジネスパーソンに向けた講演・執筆を通じて、生成AIの最新トレンドと実務への落とし込みをわかりやすく伝えている。
また、音楽生成AIのみで構成したDJパフォーマンスを企業イベントで展開するなど、テクノロジーと表現の融合をライフワークとして探求している。