OpenAI 影響工作 - 偽記者7人の寄稿約100本が実在メディアに。OpenAIがAI悪用の影響工作を停止 anchor left anchor right

Oct 09 2026 AIニュース

偽記者7人の寄稿約100本が実在メディアに。OpenAIがAI悪用の影響工作を停止

anchor left anchor right

📖 この記事で分かること

  • OpenAIが止めたロシア・イラン発の2つの工作の中身
  • 偽の記者と偽の研究機関がどう実在メディアに入り込んだか
  • AIが工作のどの作業に使われ、どこに使われなかったか
  • 寄稿を受ける媒体や記事を読む側が確かめられること

💡 知っておきたい用語

  • 影響工作:正体を隠したまま、ある国や集団に都合のよい主張を世論に流し込む活動。広告のように送り手を名乗らない点が違う

最終更新日: 2026年10月9日

▶ 公式ページ

OpenAI 影響工作 - 偽記者7人の寄稿約100本が実在メディアに。OpenAIがAI悪用の影響工作を停止

「偽の看板」を使う影響工作とは

この記事のポイント

  • OpenAIは2026年10月8日、ロシア発とイラン発の影響工作2件に関わるChatGPTアカウントを停止したと報告しました。
  • イラン側は偽の記者7人の名前で、約100本の記事を十数の海外ネット媒体に載せていました。
  • ロシア側の工作は、OpenAIが報告を始めて以来初めて、影響の大きさで6段階中の「5」と評価されました。

寄稿を受け付けるネット媒体の編集者や、社外の書き手に記事を頼む広報・オウンドメディアの担当者にとって、他人事ではない報告です。OpenAIが10月8日に公開した調査報告によると、AIで文章を整えた「偽の記者」の売り込みが、実在するニュースサイトの編集者の審査を通り、記事として掲載されていました。

今回の2件に共通するのは、SNSに偽アカウントを並べるのではなく、「記者」や「研究機関」という偽の看板(フロント)を立てて、実在の媒体や実在の人を経由して主張を広げた点です。OpenAIはこれを「false front(偽の看板)」型の工作と呼んでいます。

OpenAIはこの2年半で30件の影響工作を公表してきました。その経験から、偽のSNS拡散に頼る工作より、実在の媒体に記事を載せようとする工作のほうが届く範囲と影響が大きくなりやすい、と報告書は述べています。

2つの工作で何が起きたか

結論から言うと、イラン側は「偽の記者による寄稿」、ロシア側は「現地の人を知らずに雇った偽シンクタンク」で、実在のメディアや社会に入り込んでいました。

イラン発「Bogus Bylines」:偽の記者が寄稿を売り込む

OpenAIによると、イランから接続していたアカウント群は、米国とイランの紛争をめぐる英語の長文記事をChatGPTで推敲していました。典型的な使い方は、下書きを特定の媒体の投稿規定に照らしてチェックさせ、直しを提案させ、最後に編集者あての売り込みメールを書かせる、という流れです。

売り込みには7人分の偽の署名が使われ、多くは米国の(1人はニュージーランドの)フリー記者という経歴を名乗っていました。OpenAIはこの工作を「Bogus Bylines(偽の署名)」と名付けています。

  • 掲載された記事: 十数の媒体で約100本(2025年7月〜2026年10月)
  • 掲載先: 国際情勢や中東を扱う小〜中規模のネット媒体
  • 掲載媒体の例: Facebookのフォロワーが約200万人いる媒体もあった(2026年8月時点)
  • 偽の記者の一部は、X・Facebook・Instagram・Medium などにも裏付け用のアカウントを持っていた

一方、同じ工作がChatGPTで量産したSNSのコメントは、いいねや閲覧が1桁〜2桁にとどまり、ほとんど広がっていませんでした。OpenAIは、記事の掲載を影響度「4」、SNSのコメントを「2」と評価しています(影響工作の広がりを1〜6で測る Breakout Scale による)。

ロシア発「Dark Clark」:知らずに雇われた現地スタッフ

ロシアから接続していたアカウント群は、中南米を対象に、ウクライナの評判を落とす工作や、アルゼンチン・ボリビアなどの内政に影響を与えようとする工作を行っていたとされます。

特徴的なのは、「Social Research Center(SRC)」という研究機関を名乗る組織を、「Mia Clark」という偽の人物を通じて動かしていた点です。OpenAIは、現地で働くスタッフはロシアの組織のために働いているとは知らず、誠実に調査をしていたとみています。SRCのサイトには60本を大きく超える記事があり、その大半が独自に書かれたものでした。

ロシア側の工作は、偽の「流出文書」や偽の音声も使っていました。工作側の内部報告によると、ペルーではリマの教育当局を装った偽メールで学校に行事を開かせ、それを火種にした話を報道に流したとされ、OpenAIはこれと一致する記事をペルーやポーランドの報道で確認しています。エクアドルでも偽のメールアドレスから学校に指示を送った件が報じられ、教育相が反論を出すまでに広がりました。OpenAIはこの工作を影響度「5」と評価し、報告を始めて以来初めての「5」としています。

AIは工作のどこに使われたのか

意外なのは、AIが記事を「量産」したというより、昔からある工作の作業を楽にする道具として使われていた点です。OpenAIは、今回の2件がAI以前の複雑な影響工作によく似ていると書いています。2016〜17年に欧米の媒体に記事を載せたロシア軍情報機関の偽記者や、2020年に世界の記者を知らずに書かせた偽ニュースサイトの例が、報告書で引き合いに出されています。

AIが担った作業は、報告書に沿って整理すると次のとおりです。

  • 文章の仕上げ: 投稿規定に合わせた推敲、編集者への売り込みメール、偽の記者の経歴文
  • 翻訳と言い回しの調整: 国ごとの訛りや語彙、役所らしい文体への寄せ方
  • 内部向けの報告書: ロシア側はこれが最も多い使い方だった

内部報告書については、どちらの工作も成果を大きく見せる書き方をしていたと、OpenAIは指摘しています。イラン側は、自分たちのコメントの閲覧数ではなく、返信を付けた元の投稿の閲覧数を「成果」として数えていました。ロシア側は、自分たちと関係のない出来事まで手柄として報告していました。

OpenAIは両方のアカウント群を停止し、関係当局と情報を共有したとしています。どちらの工作もVPNで接続元を隠しており、ロシア側については、OpenAIがロシアからの利用を認めていないためだと説明しています。

寄稿を受ける側・読む側に関係すること

今回の掲載先は国際情勢を扱う海外のネット媒体で、報告書に日本の媒体の名前は出てきません。ただ、狙われた弱点は「外部から届いた原稿を、書き手の実在を確かめずに載せてしまう」ことで、寄稿や外部ライターを受け入れる媒体なら国を問わず当てはまります。

報告書から読み取れる、確かめられる手がかりは次の3つです。

  • SNSの所在地表示: 「米国のフリー記者」を名乗る人物のX・Instagramの透明性情報(アカウントの所在地)がイランを示していた
  • 同じ名前の重複: 偽の記者「Michael Harrison」と同じ名前の人物が、Metaが3月に摘発した別のイランの工作にも登場していた
  • フォロワーと実態の差: SRCのLinkedInページはフォロワー961人で社員200〜500人を名乗る一方、登録社員は2人だけだった(8月17日時点)

AIが文章を整えるようになると、売り込みメールの文面や英語の自然さは、もう本物かどうかの手がかりになりません。文面ではなく、書き手の過去の記事や所属を別の経路でたどれるか、という点に確認の重心を移す必要があります。

読む側にとっても、記事の署名や「研究機関」の看板だけで信頼を決めないことが手がかりになります。OpenAIは、報告書で挙げた過去の偽記者と偽ニュースサイトの2例は、正体が公表された後に活動を止めたと書いています。今回の報告を公開する狙いも、他の研究者や企業が同種の工作を見つけて止めやすくすることにあるとしています。

編集部の見方

編集部は、今回の報告でいちばん重く見るべき点は「AIで作られた偽情報」そのものではなく、AIで文面が整った偽の書き手が、実在する媒体の編集者の審査を通ったことだと見ています。

  • 根拠1: イラン側の約100本は、SNSのコメントがほとんど広がらなかったのに対し、実在の媒体に載った記事のほうが影響度「4」と高く評価された。
  • 根拠2: OpenAIは30件の工作を比べ、実在の媒体に載せる工作ほど届く範囲が大きくなりやすいとしている。
  • 根拠3: 使われたAIの役割は投稿規定に合わせた推敲や売り込みメールで、まさに編集者が書き手の質を判断する材料の部分だった。

寄稿や外部ライターを受け入れている媒体は、文章の出来ではなく、書き手の実在を確かめる手順を持っているかを、一度見直す価値があります。日本語の媒体はまだ報告に出てきていませんが、翻訳や言い回しの調整にAIが使われていた以上、言語の壁が守りになると考えるのは危ういと見ています。

この見方が変わる条件: 今後の報告で、AIが書き手の身元確認そのもの(過去記事や所属の偽装)まで自動化している事例が出てきた場合、確認の重心は「書き手の経歴をたどる」ことから、媒体どうしの情報共有など別の仕組みに移ると考えます。


よくある質問

Q: 今回の工作はChatGPTが記事を丸ごと書いたのですか?

A: OpenAIによると、イラン側は英語の下書きを投稿規定に合わせて推敲させ、売り込みメールを書かせる使い方が中心でした。ロシア側は内部報告書の作成が最も多く、工作用の文章作りは全体の一部だったとしています。

Q: 日本のメディアにも記事が載ったのですか?

A: 10月8日の報告書に名前が出てくる掲載先は、国際情勢や中東を扱う海外のネット媒体で、日本の媒体は挙がっていません。

Q: OpenAIはどんな対応をしたのですか?

A: 両方の工作に関わるChatGPTアカウントを停止し、関係当局と情報を共有したとしています。イラン側については業界のパートナー企業とも情報を共有しました。


まとめ

OpenAIが10月8日に報告した2つの影響工作は、偽の記者や偽の研究機関という看板を立てて、実在の媒体と実在の人を経由して主張を広げていました。AIは記事の量産よりも推敲・翻訳・売り込みといった作業の効率化に使われ、その結果、約100本の記事が編集者の審査を通りました。寄稿を受ける側は、文章の出来ではなく書き手の実在を確かめる手順を持てるかが問われています。


【用語解説】

  • Breakout Scale: 影響工作がどこまで広がったかを1(最小)〜6(最大)で測る尺度。OpenAIは米ブルッキングス研究所の論考で示されたこの尺度で、工作ごとの影響を評価している
  • フロント組織: 本当の運営者を隠すために表に立てる組織や人物。今回は偽の記者や研究機関がこれに当たる
  • 透明性情報: XやInstagramが一部のアカウントについて表示する、所在地や接続元などの情報

引用元:


この記事について: AI 支援で執筆、編集部が事実確認・編集しています。誤りや追加情報があれば Contact よりお知らせください。

anchor left anchor right
KOJI TANEMURA

15 年以上の開発経験を持つソフトウェアエンジニア / テクノロジーライター。AI エージェントの実務活用を研究し、現場や経営者向けセミナーでその知見を発信。本メディア tech-noisy.com では、一次情報に基づく最新ニュース・解説記事を執筆。また、音楽生成 AI による DJ パフォーマンスを企業イベントで行うなど、テクノロジーと表現の融合も探求している。